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2019.07.18
服部 文哉先生のパワエレ講座1

パワーエレクトロニクスとは

身の周りの電子機器に使われているパワーエレクトロニクス、略してパワエレ(パワーエレとも書かれる)という技術をご存じでしょうか?インターネットで“パワエレ”をキーワード検索すると、“電力用半導体スイッチング素子を利用して、電力の変換や制御、またそれらの応用を取り扱う技術分野”と記述がありました。初学者からするとなんのこっちゃ?って話ですよね。この記事ではなるべく分かり易く、パワエレの技術についてお話を進めていきます。

まず、どこにパワーエレクトロニクス技術が導入されていると思いますか?実は私たちの身の周りで、電気で動くすべての装置にはパワエレ技術が使われているといっても過言ではありません。例えば、身体に装着して使用するウェアブルデバイス、省エネルギー化に注目されている LED 照明、パソコンの充電に必要なアダプタ、料理に使う IH クッキングヒータ、移動手段に使うクルマ、空を飛ぶ飛行機にもパワエレ技術は使われています。では、その技術の役割についてお話しましょう。私たちは電気機器のプラグをコンセントに挿して、電気機器を使用しています。コンセントに来ている電気は交流で日本では AC100V が使われます(AC は Alternating Current の略)。はたしてこの AC100V が電気機器そのまま使われているのでしょうか?答えは否です。実際は AC100V が直流である DC に変換されています(DC は Direct Current の略)。

つまり、AC の電力が DC の電力に変換されています。端的に言えば、この変換する技術がパワエレ技術なのです。それでは単に変換する技術がパワエレ技術なのでしょうか?そんなことはありません。事実、私たちの使う電気機器はそれぞれコンセントの電気が電気機器を動かす最適な電気の形に変換や制御されています。ここで電気の形とは交流や直流の意味だけでなく、周波数やその大きさを含みます。私たちが体調に合わせて身体を制御するように、パワエレ技術が書く電気機器に最適な電気の形へ制御するのです。これがパワエレ技術です。ところで、パワエレ技術は ACを DC に変える AC-DC 変換だけではなく、図 1 の通り、DC から AC に変換する DC-AC 変換、DC から DC に変換する DC-DC 変換、さらに AC から ACに変換する AC-AC 変換があります。特に、AC からDC への変換を順変換、DC から AC の変換を逆変換と呼びます。DC-DC 変換と AC-AC 変換は次回詳しくお話します。

電力変換

パワーエレクトロニクスのはじまり

パワーエレクトロニクスの語源は 1969 年に G.E.(General Electric 社)H.F. Storm が IEEE Spectrumの記事で記述した内容にあるといわれています[1][2] 。1974 年に図 2(前頁)に示す W. E. Newell が逆三角形で電子工学、電力工学、制御工学の狭間の分野であると、パワエレのイメージを提唱して、その後、広範にパワエレの説明に使われました[1][3]。そのため、パワエレは語源から鑑みると、1 世紀もたっていない技術になります。しかしながら、機器応用に非常に近い技術でもあるので、その発展は目覚ましく、昨今では図 2 の(b)に示す通り、電子工学、電力工学、制御工学だけではなく、熱力学などさらに多くの分野が融合した技術分野として発展を遂げています [4]。 一方で、パワエレ技術は目に見えないところ活躍しているため、一般の方々には中々気づかれません。

絶対に必要な技術なのですけどね…。要するにパワエレは“縁の下の力持ち”なのです。近年は AI や IoTが注目されて、そちらにばかり注力しがちですが、AI や IoT を動かすにもパワエレ技術は必要です。そのため、日本国内でパワエレ技術者を増やさなければならないのですが、若い世代にはパワエレ技術の楽しさに気づいてもらえず、中国などの大国に押され気味です。ベテランパワエレ技術者の技術継承は必要不可欠なので、是非機会を作って、パワエレ技術を教えてもらいたいところです。 今回はこれにて失礼いたします。読んでいただき、ありがとうございました。

参考・引用文献
[1] 今井 孝二 監修, “パワーエレクトロニクスハンドブック”, 株式会社エヌ・ティー・エス, 2002 年, p.3-4 [2] 檀 良 編著, “プロセス・デバイス・シミュレーション技術”, 産業図書 [3] WILLIAM E. NEWELL, “Power Electronics-Emerging
from Limbo”, IEEE Trans. On Industry Applications, VoL. IA-10, No,1, pp. 7-11, 1974 [4] 伊東 淳一, 伊東 洋一, “キロ・ワット超を制御する電力変換技術の実際”, CQ 出版株式会社,