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2020.06.19
服部 文哉先生のパワエレ講座10

昇圧チョッパ回路

皆さま、宿題は解けましたでしょうか?前回の内容を思い出しながら、昇圧チョッパ回路の入出力関係を考えていきましょう。

それでは早速ですが、前回の降圧チョッパの記事と対比しながら説明していきますね。
図1 昇圧チョッパの基本構図1 に昇圧チョッパ回路の構成を示します。この回路は入力側Vinの電圧を昇圧させ、出力側Vout(>Vin)ととして得ることができます。例えば、ハイブリッド車だと入力側Vin にバッテリが、出力側Vout にモータ駆動用回路(負荷)が接続されます。回路構成はいたってシンプルで、入力からインダクタ、スイッチ、ダイオ―ドと続きます。
図2 動作を考えるときのイメージもう少し回路っぽく描くと、図2(a)の通り、入力側と出力側には電圧安定用キャパシタが接続されます。この電圧安定用キャパシタは降圧チョッパ回路と同様で、容量が大きく、電圧が非常に安定しています(ほぼ変動しません)。そのため、さらに回路はシンプルになり、図2(b)の通り、入力側と出力側には直流電圧源が接続されたように見なせます。
…何かお気づきになりませんか?
そうです、降圧チョッパ回路と使われている部品が同じです。反時計回りに降圧チョッパ回路のインダクタ、スイッチとダイオードを回転させてみてください。ダイオードは逆向きですが、部品の配置を変更するだけで、面白いことに入力電圧を降圧させたり、昇圧させたりできるのですね。もう少し突っ込んだ解説をご所望の人は“電気回路”と“双対”でググってみてください(笑)。“世の中って法則で成り立ってるんだなぁ”って実感できるかもしれません。
話を戻しますが、昇圧チョッパ回路も図2 の構成を基に回路内スイッチをON/OFF させて、入力電圧や入力電流の変換を実現します。今回も、回路動作の理解を簡単にするため、“インダクタ電流は0 にならない”=“電流は同じ方向に流れ続ける(出力側に流れ続ける)”と仮定します。インダクタ電流が0になる場合は降圧チョッパ回路と同様で動作が少し複雑になるので、今回は省略します。

早速、回路動作を確認してみましょう。といっても、動作はスイッチのON/OFF だけです。図3 昇圧チョッパ回路の動作
図3 の通り、2 通りのMode で回路動作が完結します。Mode1 ではスイッチがON しており、インダクタにエネルギーを蓄積しています。この間、インダクタには電流という形でエネルギーが蓄えられていきます。一方でMode2 では、スイッチがOFFしていますが、インダクタに蓄積されたエネルギーが入力側Vin に上乗せされるようなイメージで出力側Vout に供給されます。そのため、出力側には入力電圧Vin より大きな電圧が出力されるのです。
ところで、昇圧チョッパ回路において、入出力の電圧関係は何で決まるのでしょうか…。またこの導出には何を使うと思いますか?もちろん前回と同じで、これには次のインダクタの定常状態のお話を活用します。

・インダクタの定常状態ではインダクタに印加される電圧の積分値(面積)が0

を覚えていますか?これを使えば、降圧チョッパ回路と同様に、昇圧チョッパ回路の入出力電圧の関係が導出可能です。また前回と同じく、回路動作を簡単化するため、ON したときのスイッチのオン抵抗は0Ω、OFF したときのオフ抵抗は∞Ω、ダイオードのオン電圧は0V とします。

図4 に各Mode でインダクタに印加される電圧波形とスイッチのON/OFF タイミングを示します。図4 昇圧チョッパ回路のインダクタ電圧とスイッチタイミング
ではスイッチがON していますので、このON 期間で印加されるインダクタ電圧はvL_ON は
図7
となります。

一方で、Mode2 ではスイッチがOFF しており、インダクタには出力側電圧と入力側電圧の差分Vout-Vin そのまま印加されます。
したがって、このOFF 期間で印加される電圧はvL_OFF は
図8
となります。

ここで、積分値(面積)が0 という条件を使ってみましょう。
ON 期間の電圧面積SON は
図9

一方でOFF 期間の電圧面積SOFF は同様に
図10

定常状態では、これらの積分値は0 となるので(OFF期間の計算値は負)、

図11

が成り立ちます。ところで、
図12
なので、先ほどの式にDuty 比を適用すると、
図13
となります。この式からスイッチのON 期間と入出力電圧の関係が関連付けられました。つまり、昇圧チョッパ回路も降圧チョッパ回路と同様に、スイッチのON 期間で出力電圧を制御できるのです。また、スイッチを1 周期の間OFF させ続けた場合、昇圧チョッパ回路の入力電圧Vin と出力電圧Vout は等しくなることもこの式から容易に推測できます。言い換えると、昇圧チョッパ回路はVin より低い電圧の出力が不可能であるということになります。

最後に降圧チョッパ回路と昇圧チョッパ回路の住み分けをまとめてみましょう。図5 チョッパ回路の住み分け図5 にDuty と各回路の出力電圧関係を示します。横軸がDuty で縦軸が降圧チョッパ回路と昇圧チョッパ回路の出力電圧です。これを見れば一目瞭然で、Vin より低い電圧を出力させたいときは降圧チョッパ回路を、Vin より高い電圧を出力させたいときは昇圧チョッパ回路を選択してください。
図6 双方向コンバータ話は飛びますが、もしこれらの回路でエネルギーのやり取りを双方向にしたい場合は図6 の通りにダイオードをスイッチに置き換えます。この回路では左からは昇圧動作、右からは降圧動作が実現できます。例えば、あるクルマではバッテリからエネルギーを取り出すときは昇圧動作を、モータからエネルギーをバッテリに戻すときは降圧動作をしています。簡単な回路に見えて、実際にクルマ
に搭載されている回路なので、知っておいて損はないと思いますよ。

今回はここまで、次回はクルマに本当に搭載されているの?っと疑っているあなたへ(笑)、PCU をみてみましょうか。
それではまた次回。

参考・引用文献
[1] 今回は無し

 

注:2020/2に作成頂いた分です。