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2020.01.15
服部 文哉先生のパワエレ講座5

半導体スイッチング素子

パワエレは“電力用半導体スイッチング素子を利用して電力の変換や制御とそれらの応用を取り扱う技術分野”となっています[1]。
ところで半導体スイッチング素子とはなんでしょうか?
そもそもスイッチて何ですか?これを見ていきましょう。

図1 機械スイッチの例皆さまがイメージするスイッチは図1 に示すスイッチが多いのではないでしょうか?
部屋の照明を点灯したり、コンセントによる家電製品のON/OFF の切り替えに使いませんか?
私たちがよく目にするスイッチは手動でON/OFF することが多いかと思います。実際、私たちはこの手動によるON/OFF を通して、電流を流したり、切ったりしています。
ここで、例えば1 秒間にどれくらい手動でON/OFF が可能でしょうか?
1 秒で5 回程度のON/OFF が限界ですよね? “別にそんなに早くON/OFF しなくてもいいんじゃない?” と普通は思いますのよね。実は電気回路の世界だとこの早いON/OFF による電流の制御が非常に重要なのです(もちろん電圧もですよ。)。
例えば、電気回路の世界で高速にON/OFF を行えば、回路内の受動素子の小型軽量化が実現します。これは結果として、パワエレ機器の小型軽量化や低コスト化に直結します。

ところで、電気回路の世界でこのように高速にON/OFF できるものってあるのでしょうか?
そこで半導体スイッチング素子の登場です。では半導体とは何か?簡単にその説明をしましょう。

 

早速ですが、図2 に導体、絶縁体と半導体を示します。
まず導体と絶縁体はご存知でしょうか?導体は熱や電気を通し易い物質のことで、例えば金属などが挙げられます。電気回路でよく使われる金、銀や銅がこれにあたりますね。余談ですが、電気を通し易い物質は熱の伝導もよいです(実は電気回路では熱が厄介です…。)。
では絶縁体は?これは電気を通しにくい、あるいは電気を通さない物質で、ゴムやプラスチックが代表です。
さて、半導体は何なのでしょうか?ここまで来るとご理解されている方もおられるかもしれません。そうです、半導体は“導体と絶縁体の中間にあたる物体”です[2]。“半”ですから「中間かなー」って気がしますよね。
図2 導体、絶縁体と半導体の材料
抵抗率で導体、半導体、絶縁体の区別をすると、図3 の通りとなります[2]。
一般に10-5Ω㎝以下の物質は「金属」、逆に1010Ω㎝以上の抵抗率尾持つ物質は「絶縁体」と呼ばれ、これらどちらにも属さない抵抗率をもつ「電気的に中途半端な物質」が「半導体」です[2]。半導体は電気的に中途半端なおかげで、熱や電気を与えると電流が流れたり、流れなかったりします。これにより電流の流れを制御できます。
つまり、私たちが手動でスイッチをON/OFF していると同様に、半導体へ外部から何らかの信号を与えることで半導体をスイッチとして機能させることができるのです。
図3 低効率での区別[2]

それでは大まかに半導体スイッチング素子として何があるのでしょうか?
図4 に半導体スイッチング素子を示します。
私たちが一般的に見る半導体スイッチング素子は図4 の通り、樹脂によってパッケージングされていることが多いです。

図4(a) ダイオード 図4(b) トランジスタ
図4(c) 大容量用トランジスタ 図4(d) クルマに搭載されたトランジスタ

これら素子の種類を大きく分けると表1 のダイオードとトランジスタに分類できると思います。
ダイオードは内部構造によって種類があり、特性が異なりますが、電気回路的な動作は似ています。
図5 に実際のダイオードと回路図記号の対応を示します。

表1 ダイオードとトランジスタ 図5 実際の」ダイオードと回路図記号の対応

図6 ダイオードの動作
また、図6 は基本的な動作です。ダイオードは電気回路の回路状態によってON/OFF します。図6(a)の状態1 のようにアノード側(記号ではA)に正電圧、カソード側(記号ではK)に負電圧が印加されると(電位差=電圧の差が生じると)、ダイオードがON してアノードからカソードに電流が流れます。
一方で、図6(b)の状態2のようにカソード側に正電圧、アノード側に負電圧が印加されると、ダイオードはOFF 状態を維持して電流を流しません。
図6 の(c)がダイオードの動作に似ていて、クルマが電流の流れとすると、クルマが一方通行では一方の向きしか走行できないのと一緒で、電流もダイオードがあれば一方の方向しか流れることができないということです。
この特性を使うと電気回路上でのダイオードの役目は次の通りになります。

①一方向に電流を流したいとき

②インダクタ電流を循環させたいとき

上記①はその通りで、ダイオードはアノードからカソードにしか電流を流しませんから、電流にとっては一方通行になります。上記②ですが、インダクタは急に電流の流れを止めることができませんから、電気回路ではインダクタ電流の迂回路を作っています。トランジスタと並列に挿入されていることも多いです。

次にトランジスタです。トランジスタはダイオードと異なり、外部から信号を与えないとON/OFF しません。図7 の上部はトランジスタのイメージです。手動ではプラスチックの青い部分を押すことで、銅と銅が接触して電流が流れます。トランジスタではこの手の分が電流や電圧の大きさに置き換わります。

ここで電流の大きさによって駆動する方法を“電流駆動”、電圧の大きさによって駆動する方法を“電圧駆動”といいます。表1 にも書いてありますね。

図7 トランジスタのイメージ

図8 トランジスタの駆動法これを図8 にイメージで描くと、図8(a)ではトランジスタのON 動作に必要な電流を外部から流し込むと、大きな電流が流れ、OFF にしたいときは外部からの電流を遮断します。一方で電圧駆動は、図8(b)の通り、トランジスタのON 動作に必要な電圧を外部から印加し、OFF したいときは外部から印加する電圧を0 とします。つまり何が言いたいかといいますと、トランジスタは制御部から電力的に小さな信号(小さな電圧と電流)を与えて、大きな電力を扱うことができる素子なのです。
実際にパワエレはこの小さな電気信号にて大電流や大電圧を制御し、電力系統、新幹線、自動車や家電機器などに必要な電力を供給しているのです。全部大きい電力でやればいいじゃないかと思いませんか?それだとダメなのです。電流が大きいと発熱が大きくなって装置が大きくなってしまいますし、電圧が大きいと今度は絶縁と距離の関係でまた装置が大きくなってしまいます。パワエレ回路は小さい信号(小さな電力)と大きな信号(大きな電力)が混在している回路なのです。小さい信号と大きな信号の混在は回路動作を難しくさせるのですが、そのお話はまた今度したいと思います。

今日はここまで。今回もお読みいただき、誠にありがとうございました。
参考・引用文献
[1] 千葉大学 電力変換教育分野.
http://ps.te.chiba-u.jp/what_is_pe.html
[2] 谷口 研二, 宇野 重康, “絵から学ぶ半導体デバイス
工学”, 朝倉書店(2014)
https://jp.freepik.com/
[3] ビヨビヨイラスト工房
https://ameblo.jp/biyobiyo523