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2020.05.18
服部 文哉先生のパワエレ講座9

チョッパ回路

やっとDC-DC コンバータの内容に入ります。
今回はチョッパ回路について触れます。ここまで長かったですね…。
チョッパ(chopper)という意味は“chop=刻む[1]”が由来かと思いますが、チョッパ回路は電圧や電圧を切り刻んで、電力を制御する回路となります。電源の界隈で耳にする回路だと、入ってきた電圧を下げる「降圧チョッパ回路」や入ってきた電圧を上げる「昇圧チョッパ回路」があります。両回路は身近なところで、ハイブリッド車などでバッテリエネルギーの充放電に使われているんですよ!
なのでまずはこの2 つの回路動作を見ていきたいと思います。
ところでこれらの回路はそのまま英語表記に翻訳すると、降圧チョッパ回路がbuckchopper circuit、昇圧チョッパがboostchoppercircuit になりますが、あまり論文では見かけないです。どちらかというとbuck converter とかboostconverter というのが多い気がします。ご参考まで。

降圧チョッパ回路
図1 降圧チョッパの基本構成

それでは早速ですが、図1 に降圧チョッパの構成を示します。
この回路は入力側Vin の電圧より低い所望の電圧を出力側にVout ととして得ることができます。
例えば、ハイブリッド車だと入力側Vin にモータ※駆動用回路(負荷)が、出力側Vout にバッテリが接続されています。(※例えば、クルマであればタイヤなどを回すための装置。クルマにおいて降圧チョッパ回路内ダイオードはスイッチとなる。)
図2 動作を考えるときのイメージ回路の構成はいたってシンプルで、入力からスイッチ、ダイオード、インダクタと続きます。
もう少し回路っぽく描くと、図2(a)の通り、入力側と出力側には電圧安定用キャパシタが接続されます。この電圧安定用のキャパシタは比較的に容量が大きく、電圧が非常に安定しています。そのため、回路はさらにシンプルになり、図2(b)の通り、入力側と出力側には直流電源が接続されたように見なすことができます。この構成を基に、回路内のスイッチをON/OFF させて、電圧や電流の変換を実現します。ただし今回は、動作理解を助けるため、インダクタ電流は0 にならないと仮定させてください。インダクタ電流が0 になる場合は動作が少し複雑になるので、今回は省略します。
図3 降圧チョッパ回路の動作それでは早速動かしてみましょう。といっても、動くのはスイッチのON/OFF なので、図3 の通り(次ページ)、2 通りのMode で回路動作が完結します。Mode1 ではスイッチがON しており、出力側Voutにエネルギーを供給しています。この間、インダクタには電流という形でエネルギーが蓄えられていきます。一方でMode2 では、スイッチがOFF していますが、インダクタに蓄積されたエネルギー(電流)が出力側Vout に供給されますので、出力側Voutの電圧は0 にならず、電圧が維持されます。
ところで、降圧チョッパ回路において、入出力の電圧関係は何で決まるのでしょうか?そもそも入出力の電圧関係は決めないといけないのでしょうか?
では、もし入出力の電圧関係が決まらない場合を想像してみてください。入出力の関係が決まらない場合、そもそも設計できませんよね。先ほど、出力側には例えば、バッテリが設置されるとお話しましたが、出力側電圧Vout が決まらなければ、そもそも所望の電圧のバッテリを接続できませんよね?
つまり入出力の関係を得ることは非常に重要なのです。そうとなれば、入出力の電圧関係を決める数式を導かねばなりません。これにはインダクタの定常状態のお話を活用します。電源回路では電力伝送の際に、定常状態に近い状態で電力伝送していることが多いので、前回の定常状態のお話が使えます。ではどの部分を使うのか?どれでもいいのですが、簡単に計算できる

・インダクタの定常状態ではインダクタに印加される電圧の積分値(面積)が0

を使います。また、回路動作を簡易化するため、スイッチがON したときのオン抵抗は0Ω、オフ抵抗は∞Ω、ダイオードのオン電圧は0V とします。
図4 降圧チョッパ回路のインダクタ電圧とスイッチタイミング図4 に各Mode でインダクタに印加される電圧波形とスイッチのON/OFF タイミングを示します。
Mode1 ではスイッチがON していますので、このON 期間で印加されるインダクタ電圧はVL_ON は
図6
となります。一方で、Mode2 ではスイッチがOFF しており、インダクタには出力側電圧Vout がそのまま印加されますので、このOFF 期間で印加される電圧はVL_OFF は
図7
となります。ここで、積分値(面積)が0 という条件を使ってみましょう。ON 期間の電圧面積SON は
図8
一方でOFF 期間の電圧面積SOFF は同様に
図9
定常状態では、これらの積分値は0 となるので(ON期間の計算値は負)、
図10
が成り立ちます。ところで
図11
を導入します。D はDuty 比と呼ばれ、ON 期間と1 周期の比としてよく使われるので、覚えておいてください。つまり、これから何が言えるかといいますと、ON 期間と入出力関係の関連付けが可能となり、入出力関係はいたってシンプルに次の通りとなるのです。
図12
したがって、降圧チョッパ回路はON 期間が制御できれば任意に出力電圧を制御できるのです。また、この式から1 周期の間、ずっとON させた場合、Vin=Vout と簡単に推測できます。同時に、降圧チョッパ回路はVin を超えた電圧の出力が不可能であるということになります。私も昔は数式をなおざりにしていましたが、数式の意味が理解できると、結構ものごとが簡単になります。

次は昇圧チョッパ回路です。といいたいところですが、ページもなくなりましたので、今日はここまでにしたいと思います。宿題として、図5 に昇圧チョッパの動作とインダクタの電圧波形を載せておきますので、入出力の関係がどうなるか一度考えてみてくださいね。
図5 昇圧チョッパ回路のインダクタ電圧とスイッチタイミング

今回はここまで。お読みいただきありがとうございました。

参考・引用文献
[1] weblio: https://ejje.weblio.jp/content/chop

注:2020/2に作成頂いた分です。